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福島地方裁判所 昭和30年(ワ)128号 判決

主文

被告は原告に対して金五万円及びこれに対する昭和三十年八月四日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分してその一を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

原告が昭和二十五年五月頃被告と知り合い、将来婚姻する約束のもとにその後四年間交際を続けてきたこと、被告は原告の叔父松野留吉に媒酌を依頼し、原告の両親もこの婚姻に同意したこと、原告と被告とが肉体関係を結んだため昭和二十八年十二月頃被告の子を懐胎したが、被告の意を受けて妊娠中絶の手術を受けたこと、昭和二十九年三月二十六日原告と被告とが松野留吉の媒酌により慣習上の婚姻の式を挙げて婚姻の予約をしたこと、は当事者間に争がなく、被告が右挙式後原告と同居する準備もせず、原告に逢うことを避けるようになつたこと、同年十一月頃仙台から被告が婚姻拒絶の通知をしたこと、は被告の明らかに争わないところである。(原告と被告とが従前どおり肉体関係を継続しながら、慣習上の婚姻の式を挙行後も同居していないことは前示のとおりであるが、かような原被告の関係はいわゆる内縁に該当すると解するのが相当である。)

(1)  証人梅津イチの証言によれば原告の父が「家のない者に娘はくれない。」とか「どこの馬の骨か分らないが娘をくれることにした。」などと原告を侮辱するような言葉を述べたことが認められるが、それだけでは被告の前記婚姻拒絶に正当な理由があつたということはできない。

(2)  原告が昭和三十年二月十九日被告に誠意ある回答を望む旨の内容証明郡便を送付したことは当事者間に争がない、前記証言及び証人松野つね子の証言によれば、被告がその後原告と会つて本件の解決を計らうとしたこと、原告が被告を避けたためついに会うことができなかつたこと、などが認められるが、本件内縁は既に昭和二十九年十一月頃破棄されたものであるから、このような事情があるとしても何等被告の右破棄を正当化するものではない。

結局被告は本件内縁を不当に破棄したものであるから、原告の被つた損害を慰藉すべき義務がある。そこで考えるのに、原告が二十三歳の初婚で農家の娘であること、被告が法務事務官看守として福島刑務所に勤務中のものであること、は被告の明らかに争わないところであるし、その他諸般の事情を総合すれば慰藉料の数額は金五万円と認めるのが相当である。

そうすると原告の本訴請求のうち金五万円及びこれに対する訴状送達の翌日であることが顕著である昭和三十年八月四日以降完済まで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容すべく、その余は失当であるからこれを棄却すべきものである。そこで民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 小堀勇 松田富士也)

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